『青森〜秋田 木造建築の旅』
萩生田 秀之(team Timberize)
青森出張のおり、なんとか都合をつけて延泊して1日で青森から秋田へぬける木造ツアーをやったことがある。多くの建築好きがそうするように、できるだけ効率的に多くの建築を訪れ、ついでにご当地グルメを堪能するというありきたりなものであったが、東北は森林資源が豊富で歴史的なものから近代的なものまで木造建築が数多くあり、自身の建築ツアー歴のなかでも印象的なものだったので、紹介したい。
ルートは弘前~小坂~大館~秋田市街~秋田空港で、移動距離は約220km。車であれば一日で何とか回れる距離だ。
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【弘前】
津軽氏菩提寺の長勝寺を頂点に曹洞宗三十三ヵ寺が並ぶ禅林街が、東西一直線に通っている。長勝寺は小高い丘の上に立っており、境内の裏側にあたる西方には美しい田園風景を見下ろすことができる。反対側、東側禅林街の入り口近くには「栄螺堂」がある。栄螺堂という名称自体は一般名詞ととらえてよく、内部に螺旋構造を持つ仏堂のことで、堂内を廻ることで巡礼の疑似体験ができるというもの。二重螺旋構造をもつ独特な形態の会津栄螺堂が最も有名であるが、現存するものは複数あるようだ。長方形の堂内を間仕切りで仕切って巡るものがある中で、螺旋状に上っていく弘前栄螺堂は貴重な存在。
その他弘前市内には、弘前城やカトリック教会など歴史的な木造建築が多数あるので、時間があればそちらも回りたいところ。木造に限定しなければ前川建築も訪れたい。
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【小坂】
戦前に鉱山資源とともに栄えた秋田県小坂町には、1905年に建設された木造3階建ての鉱山事務所が現存している。秋田杉を使用した洋風の事務所は1997年まで現役で使用されていたというから驚きだ。建築的にも珍しい木造螺旋階段もぜひ一度見ておきたい。
鉱山事務所のすぐ近くには、「康楽館」という1910年完成の木造芝居小屋がある。こちらは現役で活躍中。回り舞台のある木造芝居小屋は、内子座(愛媛県内子町)や八千代座(熊本県山鹿市)と並んで非常に貴重な存在。回り舞台は今でも人力で動かすことがあるそう。
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【大館】
小坂町から車で30分のところに大館市がある。いわずと知れた伊東豊雄さんの大館樹海ドーム(ニプロハチ公ドーム)のある町だ。日本最大の木造ドームは、外観内観ともに圧巻である。当時は技術的にもチャレンジングであったが日本の木造の歴史においてこの規模のものが実現したことは非常に意義深いと思う。
大館では比内地鶏の店が数多くあるので、できれば一泊して堪能したいところ。
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【秋田駅前広場・秋田駅自由通路待合ラウンジ】
秋田はスギの産地で大館ドームのように大規模なものから小規模なものまで、数多くの木造建築がある。なかでも秋田駅前のバスターミナルはデザインも素晴らしいが、行政上の背景を考えると非常に画期的なものだ。木質化された駅の自由通路および待合ラウンジもぜひ見ておきたい。
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【国際教養大学中嶋記念図書館】
仙田満・環境デザイン研究所設計(構造設計:山野憲明)の木造図書館。傘の骨組みのような木架構が非常に美しい。一般利用者も夜間を除けば利用できる。数々の賞を受賞した名建築であり、もくたび秋田編の最後を締めくくるのにふさわしい建物である。