もくたび vol.010
2025/9/3

「由布院の顔となる2つの木質建築」
 長澤怜(team Timberize会員)

少し時間が経ってしまいましたが、立命館アジア太平洋大学(APU)グリーンコモンズで開催されたteam Timberizeセミナーと合わせて、以前から気になっていた由布院駅周辺の木質建築を見学してきました。
湯布院駅周辺では、観光基本計画の目標「人と暮らしが織りなす“懐かしき未来”の創造」からも分かるように、以前から温泉地にありがちな観光俗化を排した、観光地のあり方やまちづくりが模索されてきました。こうした取組みにより、2024年の観光客数は400万人を超え、暮らしと観光が共生した魅力的な観光地となっています。
今回は、その由布院駅周辺の市民や観光客の居場所となり、文化の発信拠点となっている2つの木質建築「由布院駅舎」、「由布院ツーリストインフォメーションセンター」についてレポートします。

由布院駅の玄関口を形成する由布院駅舎と由布院ツーリストインフォメーションセンター

「由布院駅舎」
(設計:磯崎新アトリエ、1990年竣工)

由布院駅に降り立つと高さ12mの吹抜けをもつコンコースと、ゆったりとした待合室が迎え入れてくれます。コンコースは湾曲集成材によるクロスボールトの木質屋根が架けられていて、文字通り由布院のシンボルとなっています。待合室は同じく湾曲集成材を使用し、テンションバーを組み合わせたハイブリッド構造の木質屋根架構です。ゆったりとしたスペースの壁面には地元作家のアートが飾られ、単なる待合室としての機能を越えたあたたかい空間が実現していました。

コンコース屋根 交差ボールトによる木質屋根が架かる
待合室 湾曲集成材とテンションバーによる屋根にトップライトからの自然光が降り注ぐ

「由布市ツーリストインフォメーションセンター」
(設計:坂茂建築設計、2018年竣工)

由布院ツーリストインフォメーションセンター外観

続いて訪れたのが、有機的な木材のボールトが透明感のあるヴォリュームを立ち上げている特徴的なたたずまいを見せる「由布院ツーリストインフォメーションセンター」です。4.5m間隔に設けられた十字柱は、4パーツの湾曲集成材を組み合わせたもので、上部にいくに連れて4方向に分岐してボールトを構成しています。こうして出来た特徴的な空間に1階には観光情報案内スペース、2階には「旅の図書館」の機能が差し込まれ、それらが吹抜けとスロープを介して一体的に繋がれています。建築の構成としてはシンプルながらも、木材を利用した豊かな環境が実現していました。

湾曲集成材によるボールトの木質空間に機能が差し込まれている
屋根構成 ボールトとボールトに直交するアーチ梁、斜めに配置された垂木により構成される

このように、建築の表現は異なるものの湾曲集成材という共通の構成要素を持った二つの建築が呼応するように並び立つことで、観光客にとっても由布院に来たことが感じられる玄関口にふさわしい顔となっています。
駅舎や観光情報センターを単なる機能を満足する施設と捉えるのではなく、木材を利用したあたたかい空間とし、地元の文化を発信する機能を持たせることで、市民にとっても観光客にとっても地域と出会い、魅力を再発見する場として機能しているところに感銘を受けました。