所在地 :岡山県真庭市
建築設計:NKSアーキテクツ
構造設計:桃李舎
施工:大本組(建築)・銘建工業(CLT・集成材)・双葉電機(設備)
写真:エスエス企画
【寸評】
CLT発展の功労者である銘建工業の新事務所棟である。CLT大判を活かした折版屋根、V字梁を「菱組」と呼ぶ斜格子間にかけ渡す架構は、ダイナミックかつ合理的。この架構の構築だけに満足することなく、施工性、メンテナンス性、環境性能、プレビルド化、使い方、見せ方、あらゆる観点から銘建工業のプロジェクトチームと設計者が議論を重ねたそうで、実際に非常に考え抜かれたシステムである。オフィスとして十分な無柱空間を確保しており、それ自体が耐震要素となる菱組により木造らしからぬ解放感があり、新しいオフィスの在り方を提示しているように思える。
ところで、生まれも育ちも性格も違う、RCとCLTを比較して、単価が高いとか、補助金がないと成り立たないなどの声を耳にすることがある。原材料は、一方は最初からある山を削って得た粗骨材、もう一方は人が何十年もかけて育てた木、最初からコスト面で分が悪いのは当たり前で、さらに原価を落とすというのはナンセンスではないか?もっと知恵を絞ってその材料に適した使い方を追求すべきではないか?
この建物の説明に何度も出てくる「プレビルド」という言葉が、その解決策にならないだろうか。断熱材〜防湿シートまでをプレファブ化した外壁、空調ダクトと一体化されたV字型梁など、現場での工期短縮を徹底し、システム化することでコスト抑制を図っている。考えてみれば、RC同じコンクリートを原料とするPCa・PCは、同じプレファブ化を志向したCLTよりも単価はかなり高い。軽くて、ハンドリングがよく、プレファブ化に適したサスティナブルな未来の材料。そんなCLTの真の姿を見せてくれる本建物は、まさに「都市木造の未来・可能性を見せてくれる建築」であり、T-1グランプリにふさわしい作品である。
(萩生田秀之 / NPO法人 team Timberize 副理事長)