ウッドエナジー
2016年

所在地:宮崎県日南市
建築設計:網野禎昭/法政大学建築構法研究室、山口雄司、河野泰治アトリエ
構造設計:宮田雄二郎/宮田構造設計事務所
施工:大淀開発
写真:河野博之

【寸評】

この建物の凄さはぱっと見ではわからない。矩計図や解説に目を凝らし、一つ一つを読み解いていくと、木造(特にCLT)を取り巻く現在の制度や趨勢の問題点を切り取り、その回答もしくは設計思想のアンチテーゼを積み上げたような秀逸な建築、ということがわかる。具体的には下記に示す3点が評価のポイントであるが、寸評を書くにあたって、普段漠然と考えていた木造・構造を取り巻く問題に対して回答に近い実作を目の当たりにして、少々興奮気味になり内容が偏ることを了承していただきたい。
①軸組架構と組み合わせることで見出したCLTの活用意義
「CLTのみによる壁構造とは異なり、軸組架構と組み合わせることで従来の許容応力度設計法や施工技術、つまり、これまで日本に蓄積した汎用的なノウハウを活かしつつ、他の木質材料では代替困難なCLTこその活用意義を見出した点が本計画の独自性である。」CLTの注目度が高いことは結構だが、期待感のみが先行し実態を伴わないバブルのよう、そんな空気を感じる。この材料が優れているのは、現在のところ工業化された厚板大判パネルという点であり、もし全面的に建築物にCLTを採用するのであれば、工法・構法を含めた「量」と「システム」という仲間がいなければ、コスト的には大変厳しいものになる。であれば、CLTという新しい材料を従来技術の延長線上に載せて、最適なところに使用して進歩していくべきではないか。床板には曲げ剛性の小さいCLTをあえて使わず、集成材スラブとしたという点は、「適材適所」の最たるものであろう。また、新しい材料=新しいシステムでは、「新しい木造」の乱立を招き、木造の特殊化・担い手の限定が進み普及につながらない、という主張も軸組+CLTを採用した説得力のある理由である。
②CLT耐震壁の高度な技術的裏付け
壁倍率換算で16倍という高耐力CLT壁には、様々な仕掛けが施されている。終局時の変形追従性を確保するために4隅の角を落としている点は視覚的にも理解しやすい。専門的な話になるが、「耐力壁の圧縮筋交い効果を無視したことで壁の耐力と剛性の計算を明確化する意図もあった」という点については、日々構造の解析モデル化に四苦八苦している私にとっては目から鱗であった。
③あえて木構造を現しにはしていない点
CLTの話ばかりになるが、CLTは本来強度の低い原材料を大きな塊にして絶対的な強度を確保するというのが出発点である。弱さを量でカバーしているのであり、見た目的には決して褒められるものではないはずだった。しかし日本人は木を構造で使うことと、見せることから脱却できないため、CLTは本来の趣旨から逸脱して仕上がりの美しさを求められる傾向にある。これでは本末転倒で原木の有効利用にはつながらない。CLT耐力壁の上に県産材の杉板をあえて貼っているところは、示唆に富んでいる。宣言した通り偏った内容になったが、評価というよりは共感に近い。木造の新しい可能性を見せてくれるという理念とは少し違うかもしれないが、「木造のあるべき姿」を見せてくれていることに間違いはなく、T-1グランプリにふさわしい作品である。
(萩生田秀之 / NPO法人 team Timberize 理事)