東部地域振興ふれあい拠点施設
2011年

所在地:埼玉県春日部市
建築設計:山下設計
構造設計:山下設計
施工:錢高組
PHOTO:解良信介/URBAN ARTS

【寸評】

昨年竣工した木造建築を俯瞰した時、
1)都市部の駅前に立地している。
2)6層の中高層建築である。
3)公共的用途に供する施設である。
という3点において、この作品はまさに「都市木造」であることは疑いようが無い。6階建ての上部2層を一般被覆型の耐火木造建築とした「都市木造」先取的な作品であり、設計者が述べる「一般解としての耐火木造建築」を実現したその意義はとても大きい。あらわし仕上げのカラマツLVLパネルを鉄骨の枠組みにはめ込んだ耐震壁パネルを用いることで、「木の肌が見える」木質の空間表現に取り組んでいる点も評価の対象となるだろう。
こうした評価点は雑誌紙面から十分読み取れるものであるが、実際の空間を体験した私は少し違う点にも着目している。それは6階建ての上部2層の木造のオフィス部分に実際に立った時に感じた感覚だ。目に見える「木の表情」というような視覚情報とは別の、身体で知覚する木造ならではの空間性といった類の感覚である。3,500×7,000という鉄骨やRCではあまり見られない構造スパンにより立ち現れる列柱配置から生まれるものかもしれないし、木という構造素材の柔らかさからくる振動特性から感じられるものかもしれない。まだはっきりとしない「何か」であるが、そこに「都市木造空間の可能性」があるのではないかと感じさせられたのである。
(小杉栄次郎 / team Timberize)

木が“見える、触れる”というのは、木造であることの重要な要素であると思う。上棟時、約900mmピッチで掛けられた小梁が整然と並んでいる様子や、柱を両側から梁によって挟み込んだ架構は、大きな断面を作るのが難しい木造ならではの美しい構造であった。しかし、残念ながらこれらは全て耐火被服で覆われてしまい見えてこない。設計者も残念な思いであったのではないだろうか。見せる「木造」をどう作るか?の回答を、LVLパネルによる耐震壁で実現している。鉄板のフレームにLVLパネル(カラマツ)をはめ込んだハイブリッド的な耐震壁である。LVLパネルの性能をフルに利用するため、パネルと鉄板フレームとの接合部に工夫と苦労の跡が垣間見られる。実験の結果を拝見したが、耐力は十分すぎるくらいあるのではないだろうか?他の大型木造物件等にも利用が期待できそうである。完成した空間は、木造らしいか?と考えると、微妙かもしれない。しかし、新しい「都市木造」と考えれば、一つの答えである事に間違いないと思う。
(佐藤孝浩 / team Timberize)