道の駅池田温泉
2012年

所在地:岐阜県甲斐群池田町
建築設計:大建met
構造設計:なわけんジム
施工:河村綜建

【寸評】

「道の駅池田温泉」は岐阜県の山あいに建つ道の駅だ。町営温泉に隣接する敷地に、小さな木造の陸屋根が寄り集まって広い屋根をかたち作っている。高さを程々に押さえた屋根の下には、戸建ての物販店や、まちの情報コーナーを提供し地元農産物の販売するスペースが設けられている。地元出店者の入る11軒の店舗は、店と同じくらいの面積の半外部空間(ストリート)でゆるやかに連なり<木造の商店街>をなしている。
小さな長方形の陸屋根同士はトップライトによって繋がり広がっている。小さな屋根を繋いで大きな屋根を作るという方法から、私は手芸のパッチワークやモチーフ編みを連想するのだが、それもまた地元の方々が野菜や手作りの品物を持ち寄り並べる「道の駅」のありかたに自然に馴染んでいるように思う。店舗同士は互いに距離をとって配置されている。入口と出口を直線的に結んだアーケードや道沿いに連なる商店街とは異なり、どちらかといえば「デパ地下」のような、面的な広がりを生かし回遊性の楽しさを感じさせるプランニングがなされているが、パッチワークのようなこの木造屋根の下には、屋内外の区別無く自然の光が差しこみ、外の風が流れ、ずっと快適に違いない。
パッチワーク状の屋根を支えているのは、奥行きのある木の斜め柱と、細い丸パイプのポスト柱である。斜め柱は2,3本がまとまって<耐力壁エリア>を形成しているが、あくまでも壁ではなく「柱」であり、斜め柱の間に棚を掛け渡し商品を並べるなど、店舗の内外を視覚的に繋ぐ仕掛けにもなっている。一方、細い丸パイプの柱は、大きく張り出した屋根の、梁せいの大きさをそのまま見せている軒先と対比をなしている。
伝統木造の美意識では大きく張り出した屋根の軒先をいかに薄く美しく見せるかに苦心するところであろうけれど、その真逆をいく陸屋根と細い柱の組み合わせは、なんだか非常にあっけらかんとした雰囲気を漂わせている。「地面があればどこまでも、どちら向きにも広がっていけますよ」とでも言っているような肩肘張らない佇まいは「木造」だからこそ醸し出せるものなのではないかと感じる。
(内海彩 / team Timberize)

柱の垂直線、梁の水平線が強調され線材で構成される日本の伝統木造建築。軸組工法の基本形であるが、本来、鉛直荷重だけでなく地震力や風圧力などの水平力に抵抗しなければならない日本の建築としては、構造的には必ずしも合理的であるとは限らない。水平力に対しては、三角形のトラスを基本としたブレース構造としての斜材が合理性を発揮するはずである。この建物で採用されている鉛直荷重にも水平力にも抵抗することができる斜めに配置された部材は、設計者の提案する「第2近代木造」として、既存の木造建築の構成要素に固執せずに現代の構造力学、構造解析技術からみた新たな木造建築の架構システムとして提案されているのであろう。木材を新しい構造材料として再認識しながら構造的に合理的な完全な三角形とはせずに、構造芯を少しずらして棚と兼用した架構は、施工性、機能性を並行して考えて、建物全体での合理性を最優先した建物としての自然体を提案しているように思われる。
この構造システムは、本建物群でも用いられているように大規模な空間だけでなく、小規模な空間にも適用可能であり、都市部に要求されるさまざまなサイズの空間に対応することが可能であると同時に、単位空間の集積によってさらに大きな建築を実現することも可能である。都市木造に対する構造だけが主張し過ぎない自然体の木造建築として今後の展開が期待できる建物として、T1グランプリにふさわしい建築である。
(腰原幹雄 / team Timberize)